戦国basara/佐幸?現代転生妄想ネタ走り書き。
自分が死んだ時の事などはっきりとは覚えていない。
それはそうだろう、畳の上での安らかな死ならまだしも
一秒より短い刹那の連続で形作られた戦場では悠長に考え事なぞしていられない。
与えられた任務を果たすことと、
雄雄しく駆け抜けていくあの背を守るために最も効率よく敵を屠り、障害物を排除すること。
その点のみに意識は集約され、厳しい鍛錬により培われた忍びの思考回路が
戦況、気候、地形等ありとあらゆる情報を解析して高速かつ機械的に回答を導き出し、肉体を操る。
感傷になど浸っている場合ではない。
こちらが命がけならば相手も勿論命がけだ。
一瞬でも気を抜けば即、その気の緩みは死へと直結する。
そんな状況下において急所に致命的な一撃を受け、自我が消失するまでのほんのわずかな時間、
呑気に感傷に浸って我が身を振り返ることが出来る器用さを持ち合わせた人間がどこにいようか。
これが、少しでも急所を外れ出血多量のまま意識が徐々に遠のいていく、なんてことになっていたら話は別だった。
一般の人間よりは痛みに強く出来ていたから、激痛に邪魔されようとも事切れるまでの間に己が人生を振り返り
走馬灯なんてものも見ることができたのではないかと思う。
しかし自分の場合、そうではなかった。一瞬だった。
あの敵将の腕の確かさに唸るより他はない、見事な一撃を食らった。
ただ、それでも「やられた」と悟った瞬間にあの人の顔が脳裏を過ぎったような気がする。
最期に想ったのは、あの人の事だったように思う。
はっきり覚えてはいないので確証はないが、きっとそうだったのだろう。
きっと何よりも強く強く、祈るようにあの人の事を想ったのだろう。
そしてその結果が今のこの状況なのではないか、と佐助は脱力した体をソファに沈めながら目を開いてため息をついた。
視界には見慣れた天井と、見慣れた顔が逆さまに映っている。
「佐助、何をシケた面しておるのだ」
「……ちょっとアンタ、そんな雑な物言い教えた憶えないんですけど?」
「確かにお前に教わった憶えはないな」
不満げに漏らす佐助の小言をさして気にするでもなくさらりとかわして、
頭上から佐助の顔を覗き込んでいた幸村は、軽く眉を顰めると佐助の頭を挟むようにソファに両手をついて屈み込み
その目を覗き込むようにぐっと顔を近づけた。
「どうした、具合でも悪いのか?」
「いーや、全く」
心配げな様子を宥めるようにへらりと笑って見せると、幸村は相変わらず眉は顰めたまま、
今度は怪訝そうに「ならば一体どうした」と重ねて問いかけてくる。
さて、何と言ったものか。
端的に言うならば。
「ちょっと呆れてただけ」
「な、何だと!俺がお徳用パイの実を一袋空けた後にみたらし団子とおはぎとカステラを
ミルクココアマグカップに3杯と一緒に食った程度の事がそんなに呆れることか!?」
「いやそれも確かに十分呆れること、っていうか聞いてるだけで気持ち悪くなりそうだけどそうじゃなくて」
心底驚愕したように詰め寄ってくる幸村の頭を適当に片手で押し返しながら、佐助は再びため息をついた。
今のこの、あまりにも平和で他愛もないひととき。
普通、死んだら人間そこで何もかもおしまいの筈なのだが、そんな世の理を全てぶっちぎって
前世の記憶なんてものを持ったまま二人同じ時代に生まれ、巡り会い、当たり前のように傍にいる。
神仏などまるで信じていなかったこの身にそれほどの信じられない奇跡を呼んだのが、
まさに死ぬ間際のあの一瞬の自分だったのではないかと考えると、
佐助はもう呆れずにはいられないのだった。
我ながら何という執念。
自分は一体どれだけこの人の事が、と。
相変わらずぎゃーぎゃーと騒いでいる幸村の頭を両腕を伸ばして引き寄せる。
ぬお!と色気など微塵もない声を上げて驚く様子にさえ込み上げるこのいたたまれないような甘い気持ちは、
柄でもないけれど世間一般では「愛しい」なんて呼ぶのだろう。
素直にそんな気持ちを告げるには少々ひねくれ過ぎていると自覚のある佐助は、
言葉にしないまま引き寄せたその額に唇を寄せた。
ぎゃあ、と上がるまたしても色気のない叫びは取りあえず黙殺して、
(まあ、今わの際くらいになら言えるかも知れないな)と、そんな風に思う。
その時にはありったけの思いを込めて、前に死んだ時よりもっともっと強くこの人を想おう。
それができるなら、例え二度目の奇跡が起こせなくても
自分の人生には悔い一つなかったと晴れやかに笑えることだろう。
そして叶うならその先も、何度生まれ変わっても傍に。
そこまで考えて、全く自分ときたら本当にどれだけ、と苦笑いを浮かべ
真っ赤になって照れる幸村の高い体温を感じながら佐助は3度目のため息をついた。
2009.09.27
またも思い付きを取りあえず勢いだけで走り書き。